お知らせ
外国判決による強制執行
「先生! カリフォルニア州の裁判所から3000万円払えって判決が出ていたらしく、今回、アメリカの会社がウチを日本の裁判所に訴えて、アメリカでの判決を使ってウチの資産を差し押さえる手続をしてきたんです。でも、ウチはアメリカの裁判所の判決なんて、そもそも受け取ってないんです。何とかなりませんかねぇ!」
田中商事の社長さんからの相談です。お話を聞いてみると、田中商事はカリフォルニア州のABC株式会社と共同で現地でお店を出したのですが、うまくいかないうちに関係がこじれ、ABCから、まず米国の裁判所に訴えられたそうです。
田中商事は現地の弁護士さんを依頼して対応したのですが、これまたうまくいかず(外国の弁護士さんとのやりとりって、難しいですよね…)、途中で辞めてもらいました。でも、その後なかなか新しい弁護士さんを見つけられないうちに、裁判期日に欠席してしまったところ、ABC側が「欠席の登録」を申し立て、さらに3000万円の支払いを命じる欠席判決が出されたとのことでした。
途中、ABCの代理人から英語のメールなどが届いていましたが、肝心の判決は見せてもらっていない、知らないところで確定してしまうなんて納得できない、というご主張です。
判決手続は、国によってさまざま。今回問題になったカリフォルニア州の「欠席の登録」という制度は、日本に類似の制度がないため要注意です。裁判期日に欠席すると、裁判所は相手方の申立てにより「欠席の登録」をすることができます。この登録がありますと、その後、欠席が解消するか、もしくは欠席判決が登録されるまで、欠席した側は訴訟上、実質的に何もできなくなってしまうのです。そのまま欠席判決が言い渡されると、その判決は欠席した側に送達される必要もなく、判決の登録から180日が経過すると確定してしまいます。
ABC社は、この判決をもって、日本の裁判所に、外国判決による強制執行を許可する申立て(執行判決請求訴訟)をしました。社長さんが言う「ウチの資産を差し押さえる手続」はこの訴訟手続のことで、実際には、ABC社がこの訴訟手続で勝訴すれば、カリフォルニア州の裁判所の判決をもって、日本の判決と同様に強制執行できるようになるのです。
結論を言えば、「アメリカの裁判所の判決なんて、受け取ってない」というだけでは、日本における強制執行を免れることはできません。しかし、実質的にも外国判決の内容を知る機会を与えられず、その結果、不服申立ての機会を逸したという事情があれば、この外国判決による強制執行は認められない可能性があります(最高裁判所平成31年1月18日判決)。
弁護士としては、社長さんから詳しく事情をうかがい、カリフォルニア州の裁判所が判決を言い渡した後、はたして田中商事としてその内容を知る機会がなかったのか、不服申立てのチャンスがなかったのかという点をしっかり検討することになります。
仮に、ABC社からご相談を受ける場合も、やはりそれまでの経緯をしっかりとうかがう必要があります。「わが社は確定判決をもっているんだから、これ1本でやってくれ。説明なんかいらんだろう」みたいなことでは、対応に窮してしまいます(文中のケースは架空です)。