法律情報コラム(個人)

破産申立ての準備① 資産の調査(2)

 少額管財事件では,破産者と申立代理人弁護士が,破産申立において資産調査結果を裁判所に報告することが必要というのが前回までの話です。
 今回は,具体的に,東京地方裁判所で求められている資産報告の内容について説明します。
 求められる報告は,東京地方裁判所の少額管財の運用から決められているものであるので,破産法に明記されていません。そのため,今後の運用により,報告する対象,範囲・内容も変更されうるので,ここでの情報は現時点で求められる報告です。
 なお,本ページは個人の破産を前提とした説明となります。
1  現金・預金
 破産者の破産申立時点の現金,預金を報告しなければなりません。
 預金は通帳のコピーを資料として添付します。過去2年分の銀行取引履歴の掲載がある通帳が必要です。
 過去2年分の取引が1冊の通帳にすべて記載されていれば,1冊のコピーですみます。しかし,複数の通帳にまたがる場合は,2年分の取引が記載された全通帳のコピーを提出しなければなりません。
 なお,「おまとめ記帳」として合算された期間がある場合,おまとめ期間の取引履歴を銀行から取り寄せて別途資料としてコピーを提出する必要があります。
 よく誤解されますが,現在使っていない預貯金も,報告が必要とされ,預金の種別も問いません。
 口座の取引履歴で不明瞭なものがある場合,裁判所に別途当該取引がどのような取引か説明できるようにします。例えば,個人名での入金,個人への送金などは,説明が必要となります。
 破産申立時の報告によって,別途管財人による資産調査が必要か否かを裁判所は判断するので,通帳の履歴から何の取引かわかりづらいものは,別途報告をしておきます。
2 公的扶助の受給
 生活保護,年金や児童手当の受給の事実も報告が必要です。その際,受給開始月等も報告します。
 この報告では,公的扶助の支払の資料も添付します。生活保護費の受給額通知,年金額の通知書などをコピーして提出します。
3 報酬・賃金
 報酬・賃金は毎月の支払日,支払金額を報告します。月により報酬額が異なる場合,そのことがわかるように報告します。
 過去2か月分の給料明細と直近2年分の源泉徴収票のコピーを提出します。源泉徴収票が手元にない場合には,課税証明書(非課税証明書)を提出します。
 個人事業主の場合は,確定申告の控えと添付する明細書・勘定科目内訳明細や試算表のコピーを提出します。
4 退職金・退職慰労金
 サラリーマンの方は,退職金・退職慰労金も報告が必要です。
 退職金支給の有無は会社により異なりますので,労働契約書,労働条件通知書,就業規則などから,退職金支給の有無を明らかにする必要があります。
 仮に,退職金の支給がある場合,退職金見込額等の証明書を裁判所に提出しなければなりません。
 退職金見込み額の8分の1(既に退職していた場合又は近く退職する予定の場合は4分の1)を破産財団に組み入れる必要があるため,その金額を正確に把握できる書面が必要です。
 破産者から,会社に破産することを告げられない,退職金見込額の証明をもらえないとの相談を受けたことがあります。しかし,債務超過状態が解消されないと,給料の差し押さえを受け会社に債務超過の事実が知れることになります。
5 貸付金・売掛金等
 個人事業主が破産する場合,貸付金・売掛金があるか否かの報告は必須です。サラリーマンの方で貸付金,売掛金があることは非常に稀と思います。副業等の収入があるような場合だと思います。
6 積立金等(社内積立・財形貯蓄・事業保証金など)
 サラリーマンの方は給料明細に財形貯蓄等の記載があるかを確認します。また,通帳の記帳でそのような取引があるか否かを確認します。
 個人事業主の方はヒアリングし,税務申告に税理士が関与していれば税理士に確認します。税理士が関与していないような場合は,通帳履歴,取引先の調査などで事業保証金などがないか確認します。
7 保険(生命保険・傷害保険・火災保険・自動車保険といったあらゆる保険)
 いわゆる掛け捨て保険は破産財団として換価対象ではありませんが,積立で満期金を受け取れるような保険は解約による返戻金が換価対象になります。そこで,保険も「掛け捨て」か「積み立て」かの報告が重要になります。また,積立型の場合,契約者積立金から貸付を受けている場合もありえますので,その点の調査も必要となります。解約返戻金が生じる場合は,解約返戻金額を証明する資料のコピーを提出します。
 いわゆる掛け捨て保険は,「掛け捨て」であることがわかる資料のコピーを提出します。
8 有価証券
 有価証券も報告対象です。ご本人としては株式を保有していないとの認識の方も多いですが,投資信託の利用が増えており,銀行通帳から投資信託が明らかになることが時々あります。
9 自動車・バイク
 自動車・バイクなどを保有している方は多く,個人事業主の方はオートローンで所有権留保が付されているケースが大半です。
 オートローンについては,車両の返還を,介入通知後に行いますが,自動車検査証などの資料を添付して裁判所に報告しなければなりません。また,自動車を保有していると自動車保険や駐車場代の支払の取引が通帳に現れるので,それを見て車両の確認をすることがあります。
10 過去5年間に 購入価額が20万円以上の資産
 貴金属,美術品,着物,パソコンなど高価品で,過去5年間に金20万円以上で購入した事実の有無も報告します。昨今,パソコンの価格が下落しているので,サラリーマンの方で報告する事例は稀です。個人事業主の方は,事業用の資産を購入している場合がありえますので,その報告をします。
11 過去2年間に処分した評価額又は処分額が20万円を超える財産
 不動産,自動車などの処分で,20万円を超えたものがある場合には,報告が必要ですが,サラリーマンの方では,この報告をする場合は少ないと思います。
 オーバーローンで任意売却したような場合には20万円は超える場合が多いので,報告をすることになります。
12 不動産(土地・マンション・建物)
 不動産を保有している場合に報告します。不動産の権利関係は法律家が登記や契約書などを確認して裁判所に報告することになるので,登記,契約書などをもってご相談ください。
13 相続財産
 遺産分割未了の相続財産なども報告します。相続による権利が現状どのようになっているのかも,法律家の専門的判断が必要ですので,戸籍や遺言書,遺産分割協議書など相続の資料を持参して,弁護士に相談し,破産にあたって適正な報告ができるようにしなければなりません。
14 事業設備,在庫,什器備品など
 個人事業主の方は,事業設備,在庫,什器備品など残っていれば,換価・処分が必要となってくるので報告が必要です。サラリーマンの方でも,副業で行っていた在庫などという話はありえます。
15 その他,管財人による調査により回収が可能となる資産
 過払金など,管財人が調査し,回収可能な資産があれば,報告します。
16 少額管財と同時廃止の振り分け
 破産申立時点で,裁判所に報告すべき資産の概要は以上です。この資産報告から,換価すべき資産がある場合には,少額管財事件として割り振られることになります。
換価すべき資産は,現金の場合には33万円以上,それ以外の資産の場合には20万円以上の資産とされており,このような資産が報告されている場合には管財事件に付され,そのような資産がない場合で,その他の事由による管財人の調査も不要と判断できる場合には,同時廃止になります。