法律情報コラム(個人)
3月8日、民法改正法案が国会に提出されました。内容は多岐にわたりますが、目玉はなんといっても「離婚後共同親権制度の導入」です。
現行法では離婚時に父母の一方を親権者にしなければならない離婚後単独親権制度が採られています。これを父母両方が親権者となる共同親権を選択できるようにするというのが離婚後共同親権制度です。
この法案は、法制審議会家族法制部会[1]での約3年にわたる審議を受けたものです。部会では賛否両論ありましたが、最終的に、子の養育については一方の親の単独の判断に委ねるよりも、父母共同の判断に委ねる方が子の利益にかなうという理念が多くの委員に共有され、離婚後共同親権制度の導入を提言しました。
ところで、この制度は、離婚後も必ず共同親権にするという制度ではありません。また、共同親権、単独親権のどちらかを原則とするという制度でもありません。
つまり、父母が協議で決める場合には、いずれを選択することも自由です。父母間で、子にとって最も良いと判断する方法を選択することができます。
また、父母間で協議がととのわず裁判所が決める場合でも、裁判所は父母と子との関係、父と母との関係その他一切の事情を総合的に考慮して、子の利益に最もかなう親権者のあり方を判断します(改正法案による民法819条7項柱書第1文)。とはいえ、一方の親が他方の親にDVをしている、あるいは子に虐待をしているといった事情がある場合には、その親をも親権者とする共同親権が子の利益にならないことは明らかです。その場合には、裁判所は必ず単独親権にするものとされています(改正法案による民法819条7項1号、2号)。
なお、この改正法は、国会で成立した後、公布の日から2年以内に施行される見通しです。
以下、よくいただくご質問にお答えします。
Q 法改正されると、裁判所では実際にどのくらいが共同親権となりますか?
A 現時点で予測することは難しいというほかありません。
たとえば、共同親権を原則とする制度であれば、例外的な事情がなければ裁判所は共同親権を命じますので、共同親権が多数になるだろうと予測がつきます。しかし、今般の制度は、共同親権、単独親権いずれをも原則とせず、裁判所がいろいろな事情を総合考慮して子の利益に最もかなう親権者のあり方を判断しますので、今のところ予測が困難です。
Q 一方の親が反対しても共同親権となることがありますか?
A 制度上、あり得ることになります。
裁判所は、父母と子との関係、父と母との関係その他一切の事情を総合考慮して、子の利益に最もかなうと判断するあり方を決めることとされています(改正法案による民法819条7項柱書第1文)。父母が共同親権にすることに合意しているかどうかは「父と母との関係」という事情に含まれますので、それももちろん重要な事情の一つですが、それが必須とはされていませんので、制度上は一方が反対していても共同親権になることはあり得ます。
法制審議会家族法制部会での議論を若干ご紹介しますと、共同親権には父母間に最低限の信頼関係は必要であるという考え方から、共同親権とするには父母双方の合意が必要という見解も根強く主張されました。一方で、子の利益を顧みず身勝手に振る舞う親もいないわけではなく、すべての親に「拒否権」を与えることは相当でないとも考えられ、結局、裁判所が個別事案ごとに判断することになったのです。
Q すでに離婚していて一方を親権者にしていますが、法改正によって、将来、共同親権を命じられる可能性はありますか?
A 可能性はあります。
すでに離婚している父母も、家庭裁判所に、単独親権から共同親権に変更するよう親権者変更の申立てをすることができますので(附則2条)、裁判所がそのように判断することがあり得ます。ただ、親権者の変更は「子の利益のために必要がある」ことが要件とされており、その判断のなかには監護実績も含まれると解されていますので、すでに単独親権の下、ある程度の期間、特に問題なく生活しているケースについて、あえて共同親権に変更される可能性は小さいのではないかと思います。
Q 共同親権が導入されるまで、離婚を待った方が得策ですか?
A 共同親権を期待する方がそのようにお考えになることは理解できますが、先に触れましたとおり、実際のところ、どの程度のケースについて共同親権が認められるか予測が困難ですので、何とも言えないところです。離婚に至る理由はさまざまですし、高葛藤の父母とともに生活し続けることで、子どもが苦しむこともあります。子どもの最善の利益をよく考えて、どうするか決めていただくほかないだろうと思います。
なお、法案では、離婚後共同親権制度の導入の他、親による子の人格尊重義務、子に対する生活保持義務としての扶養義務の明文化、親権の共同行使を巡る規律の整備、養育費の履行確保のための方策、法定養育費制度の導入、親子交流の試行的実施の明文化、財産分与における2分の1ルールの明文化、養育費・婚姻費用・財産分与等の家事手続における収入等の情報開示命令の新設等、多くの重要な改正事項が挙げられています。
今後、これらの事項についてもご紹介していきたいと思います。
[1] 当事務所の池田清貴弁護士が委員をしていました。