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ロリータそれともガーリー?~営業譲渡と競業避止義務

あなたは、街の和菓子屋さん。みたらし団子や安倍川餅、どら焼きなどを取りそろえています。賞をとったわけではありませんが、先代からの実直な商売と、甘すぎない餡が健康ブームに乗って売上は上々です。
 そこへ脱サラした中年男性がやってきました。「昔からお菓子屋を開くのが夢だったんです。500万円で事業を譲ってもらえませんか」。あなたは、こう考えます。「500万か、でかいなぁ…。でも、オレはまだ菓子屋をやめるつもりはないし…。あ、そうだ! 500万で和菓子屋を売って、オレはオレで隣町でまた和菓子屋を始めりゃいいんだ!」
 ダメダメ、ダメです。営業を譲り渡した場合、20年間、同じ市町村や隣接する市町村で同じ営業をやってはいけないことになっています。それ以外の地域であっても、「不正競争の目的」があるとされると、やっぱりアウトです。
 あなた「えっ、じゃあさ、みたらし団子と安倍川餅は譲るけど、どら焼きはオレの店に残しておいて、新たに信州おやきを加えるってのは、どう?」
 むむむ…。最終的にはきちんと合意できればいいんですが、はっきりさせていないとトラブルになりますよ。
 A社は、インターネットで婦人用中古衣類の買取・販売をやっていました。主なジャンルはロリータファッションとガーリーファッション。判決によれば、ロリータファッションとは、フリルやリボンを多用したり、パニエでスカートを膨らませたりするファッションの総称である一方、ガーリーファッションとは、一般の若い女性向けの服という印象を有するファッションの総称とのこと。ってことは、やっぱりロリータファッションは「一般」の範ちゅうをちょっと踏み越えちゃっているんでしょうか。なかなか微妙なんでしょうね。
 さて、A社は、あるときインターネットの「サイトM&A」で、このサイトの売却を申し出ます。売却理由欄には「もともとこの分野に興味関心が薄いため」。Bさんが手を上げて、めでたく契約。Bさんはサイトのみならず、営業のノウハウや顧客リストなどを譲り受け、早速、ロリータ&ガーリーファッションの中古服販売を始めました。
 ところが、出だしはよかったものの、すぐに売上は大きく下落。調べてみると、何とA社が別サイトを開いて、販売しているではありませんか。しかも、A社はBさんに営業譲渡した直後、従前のお客さんに対し新たに自分が開設した販売サイトの案内メールまで送っている始末。頭にきたBさんはA社を相手取って、営業の差し止めと損害賠償を求めました。
 これに対し、A社は、「いえいえ、Bさんに売ったのはロリータファッションだけ。ガーリーファッションは含まれてません。だから、当社がガーリーファッションを売るのは問題ないはず」と反論。かくして、ファッション業界に明るいとは思えない裁判官たちは、元々のサイトで売っていたのがロリータだけか、ガーリーも含まれていたかを判断するハメになったのでした。
 第一審も控訴審も、A社がBさんに譲り渡したサイトには、元々ロリータのみならずガーリーも売っていたと認定し、A社の営業の差し止めを命じました。一方、判断が分かれたのはBさんが求めた損害賠償でした。第一審は「売上が下がったというけれど、Bさんのやり方の問題もあったと思われるし、A社の営業が原因で下がったという証拠はない」と、つれない態度。しかし、控訴審は営業譲渡前に上がっていた利益を基準に、その3割程度の損害を認定し、A社に支払を命じました。
 振り返ってみると、A社は、「もともとこの分野に興味関心が薄い」と言って営業譲渡をしながら、契約後に従前のお客さんに対しA社が新たに開設した販売サイトを案内するなど、ちょっと背信的だったように思われます。そのあたりが控訴審の判断に影響したのではないでしょうか(東京地方裁判所平成28年11月11日判決、知財高等裁判所平成29年6月15日判決)。