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離婚後共同親権を認めた外国の裁判は有効か
離婚後共同親権導入の是非について、現在、法制審議会家族法制部会において検討されています。欧米をはじめ多くの国々において離婚後共同親権が認められている一方、日本は認めていません。それでは、日本では全く共同親権の余地がないのかというと、そうでもありません。
聡美さんは、A国で男性と結婚し、ふたりの娘をもうけましたが、夫婦関係はうまくいかなくなり、A国の裁判所で離婚が成立しました。その裁判によれば、父母は離婚した後も娘たちについて共同で親権を行使することとされていました。
その直後、聡美さんは娘たちを連れて帰国しました。実は、ここで父親の意思に反し、A国裁判所の許可もないまま子どもを連れて帰国しますと、いわゆるハーグ条約(国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約)に引っかかるのですが、聡美さんはハーグ条約発効前に帰国したため、その問題は生じなかったようです。
もうひとつ、詳しい事情はわかりませんが、父親の方も特別法的なアクションをとらなかったようで、連絡も無い一方、養育費も払わなかったそうです。したがって、聡美さんと娘たちは日本で平穏に生活していました。
そうしているうち聡美さんは貴史さんと交際を始め、娘たちも貴史さんになじみ、やがて同居を始めました。そして、いよいよ聡美さんは貴史さんと再婚し、娘たちを貴史さんの養子にしてもらおうと考えたのですが、そこで暗礁に乗り上げました。娘たちについてはA国の父親も共同親権者ですので、養子縁組をするにあたり、母親の聡美さんのみならず父親の承諾も必要となったのです。ところが、父親から承諾をとることは事実上難しく、聡美さんは途方に暮れてしまいました。
問題を、ふたつに整理してみましょう。まず、娘たちについて、A国の裁判所は離婚後共同親権の裁判をしましたが、それは離婚後共同親権を認めない日本でも有効なのでしょうか。
この点、類似の事案を扱った東京家庭裁判所令和元年12月6日審判は、A国の裁判所が離婚後共同親権を認めたときは、その裁判は日本でも有効なものと認めました。実は、外国の裁判の内容が日本の「公の秩序や善良な風俗」(公序良俗)に反すると見なされますと、日本国内では無効になってしまうのですが、裁判所は日本においても離婚後共同親権は公序良俗に反するとまでは言えないと考えたのですね。
ちなみに、以前、アメリカで、いわゆる代理母(受精した卵子を別の女性の子宮に着床させて産んでもらう方法)によって子どもをもうけて帰国した日本人夫婦が、アメリカの裁判所が日本人夫婦の子と認めたことから、日本でもその裁判を有効と見なすべきと主張したことがありましたが、最高裁判所は代理母を利用した女性を母親とするのは日本の公序良俗に反するとして認めませんでした(最高裁判所平成19年3月23日判決)。
公序良俗って、何とも微妙な表現ですが、確かに国際的にみると、代理母を認める国は非常に例外的であるのに対し、離婚後共同親権は多くの国で認められていますから、日本だけ「離婚後共同親権は日本の公序良俗に反する」などというのは難しいと考えたのでしょう。
次に、A国の裁判所の離婚後共同親権を定めた裁判が有効とすると、聡美さんは、これを単独親権に変更できるのでしょうか。
この点も、東京家庭裁判所は日本の親権者変更の手続と同じ方法で、共同親権から聡美さんの単独親権に変更することを認めました。ということで、聡美さんにとってはめでたしめでたしの結論でしたが、敷衍して、一般に日本の家庭裁判所が他の事例についても共同親権から単独親権に簡単に変更してくれるかというと、即断はできません。
聡美さんのケースでは、父親は全く連絡もよこさず、娘たちに関わっていませんでしたが、そうでないケースについては、どうなるかわかりません。A国の裁判を有効とする以上、その判断をある程度は尊重すべきだとも言えます。おそらく、実際には父親の関与の度合いや共同親権を維持することの不都合などが考慮されるのではないかと思われます(文中仮名。審判は若干内容を改変してあります)。
(注)前記家庭裁判所はA国において離婚後共同親権を定めた裁判を有効としましたが、その他の国において同様に有効となるかは事情によりますので、一般化はできません。具体的な事例については弁護士にご相談ください。