お知らせ

少数株主から株式を買い取る

経営者の悩み

中小企業の経営者からこのような悩みを聞くことがあります。

  • 会社の株式を兄弟で保有し、私が社長、弟が専務として協力してやってきましたが、弟が亡くなりました。弟の株式はその妻と子が相続しましたが、実情を知りもしないのに経営に口出しをしてきて、大変困っています。
  • 友人数人で設立した会社ですが、方針の違いから、私が一人で引き継ぎたいと思っています。任意の買取りで大部分の株式を保有するに至ったのですが、どうしても譲渡してくれない株主がいて困っています。

こんなときなどに、会社や支配株主が少数株主の株式を買い取ることができるといいですね。そのための方法として、次のような制度の活用が有効です。

① 会社が譲渡制限株式の相続人等に対して売渡請求をする方法(会社法[1]174)
② 特別支配株主が少数株主に売渡請求をする方法(179)
③ 株式併合・端数買取りの方法(180、235)

以下、それぞれについて見ていきましょう。

 

① 会社が譲渡制限株式の相続人等に対して売渡請求をする方法(174)

中小企業では、定款で株式の譲渡制限規定を設けることが多いですね。ところが、株主が死亡して、相続人が株式を相続した場合は[2]、譲渡がなされたわけではありませんので、この譲渡制限規定が適用されません。

そこで、会社法は、定款に定めがあれば譲渡制限株式が相続された場合、相続人に対し、その意思にかかわらず、株式を売り渡すよう請求できることとしています(174)。

なお、相続人との間で合意ができれば、合意による自己株式の取得の手続(156以下)を経て、買い取ることが可能ですが、ここでは合意がない場合を考えています。

この売渡しの請求をするには、その都度、株主総会の特別決議で株式の数、請求の相手方の氏名又は名称を決議する必要があります(175Ⅰ、309Ⅱ③)。なお、この決議には、請求の相手方は原則として議決権を行使することができません(175Ⅱ)。

また、この決議に基づく売渡しの請求は、相続のあったことを知った日から1年が経過するまでに行わなければなりません(176Ⅰ)。

売買価格は原則として協議で決めることとされていますが(177Ⅰ)、合意ができない場合には、売渡請求があった日から20日以内に、裁判所に売買価格の決定を求める申立てをすることができます(177Ⅱ)。その期限内に申立てをしない場合には、売渡請求自体が効力を失うものとされています(177Ⅴ)。

相続人等に対する売渡請求の仕組みを図にしましたので、参考にしてください。

 

② 特別支配株主が少数株主に売渡請求をする方法(179)

株式会社の総株主の議決権の9割以上を有する株主(特別支配株主)は、他の株主全員に対し、保有株式全部を売り渡すよう請求することができます(179以下)。

安定的な企業経営のための株式集約の方法として用いられます。会社ではなく、支配側株主が株式を取得する点が特徴的です。

特別支配株主が売渡請求をしようとするときは、会社に対し、売渡株主請求の相手方となる株主)、対価、取得日などを決めて通知し、承認を得なければなりません。なお、会社の承認は株主総会決議による必要はありません(取締役会設置会社では取締役会の決議が必要です)(179の3)。

会社が承認すれば、特別支配株主の氏名・住所、対価、取得日その他の事項を、取得日の20日前までに売渡株主に通知します。この通知によって、特別支配株主から売渡株主に対し売渡請求がなされたものとみなされます(179の4)。

そして、特別支配株主は、取得日に、売渡株主の保有株主全部を取得することとなります(179の9Ⅰ)。

ここでの取得対価の額は、特別支配株主が最初に決めた額ですが、売渡株主がこれを不服とする場合、裁判所に価格決定の申立てをすることができます。ただし、取得日の20日前から前日までという期間制限があります(179の8)。

また、売渡株主は、対価の額が著しく不当であるような場合などに、売渡請求の差止請求ができます(179の7)。

特別支配株主による売渡請求の仕組みを図にしましたので、参考にしてください。

 

③ 株式併合・端数買取りの方法

数個の株式を合わせてそれよりも少数の株式にすることを株式併合といいます。

会社はこれを用いて少数株主の株式を実質的に買い取ることができます。

会社は、株式併合をしようとする場合、併合の割合、効力発生日等を株主総会特別決議により決定しなければなりません(180Ⅱ、309Ⅱ④)。この株主総会では、取締役は、株式併合を必要とする理由を説明しなければならない(180Ⅲ)。そして、ここで決定すべき事項は、効力発生日の20日前までに株主に通知します(182の4Ⅲ)。

株式併合の効力は、上記効力発生日に生じます(182Ⅰ)。その後は、株式併合により生じた1株未満の端数の処理手続に移ります。具体的には、会社は端数の合計数に相当する株式(1未満切捨)を競売し、各株主の端数に応じて代金を分配するか(235Ⅰ)、裁判所の許可を得て、会社が端数全部を買い取り代金を分配することもできます(235Ⅱ、234Ⅱ、Ⅳ)。

反対する株主は、一定の手続を経て、会社に対し、株式併合によって生じる端数全部の買取請求ができます(182の4)。また、株式併合が法令又は定款に違反し、株主が不利益を受けるおそれがある場合には、差止請求もできます(182の3)。

株式併合・端数買取りの仕組みを図にしましたので、参考にしてください。

 

具体的な活用については、当事務所にご相談ください。

[1] 本書の引用条文は断りない限り会社法の条文を指すこととします。

[2] 正確には包括遺贈、合併等も含む一般承継全般ですが、ここでは相続を代表させて述べています。