お知らせ
ゴルフを楽しんでいるその隙に~貴重品ボックスからの窃盗
A「おい、お前、今日はゴルフをやりにきたわけじゃねえってことは、わかってんだろうな。」
B「わかってますよ、兄貴。でも兄貴こそ、おニューのパーリーゲーツですか。どっから見ても打つ気満々のゴルファーですよ。」
おやおや、ゴルフの出で立ちでゴルフ場に到着したのに、ゴルフをやるつもりはなさそうですね。それもそのはず、この二人の目的は、他のゴルファーがゴルフを楽しんでいる間に財布を失敬することなのですから。
さりげなくクラブハウスに侵入した二人は、2階へ続く階段裏の貴重品ボックスに向かい、取り出した発信器付き小型カメラを、暗証番号を入力するテンキーのちょうど上に貼り付けて設置。急いで男子トイレの個室に入って受信してみます。
B「ありゃ、なんだかコマ送りみたいで、よく見えませんね。」
A「ちくしょー、ここじゃ遠くて電波が届かないんだな。お前、このカバンを貴重品ボックスの近くの物陰に置いてこい。」
B「合点でえ。」
受信機と録画機器の入ったカバンを貴重品ボックスの近くにおいて、しばらくして回収。戸外の車に戻って再生してみると・・・。
B「おっ、ボックス番号の10番を入力して、その後、1234って入力しましたね、兄貴!」
A「そうだな。よし、お前、行ってロックを解除してみろ。10番だぞ!」
B「合点でえ。」
首尾よく財布を盗み取った二人は、さっさとゴルフ場を離れて銀行に直行。財布にあったキャッシュカードをATMに差し込み、ダメ元で貴重品ボックスと同じく1234と入力したところ、うまくいって100万円を獲得。結局、合計560万円余を引き出してしまいました。
さて、こういう場合、お金を盗まれたゴルファーとしては、犯人の二人から回収できれば最もよいのですが、実際には難しいもの。そこで、ゴルフ場に対し、貴重品ボックスの管理に過失があったとして損害賠償を求めました。
実は、こういう事件はいくつかあって、ゴルフ場の賠償責任を認めたものと、認めなかったものとがあります。結局、盗難防止策をどこまで求めるかについて、裁判官の考え方が分かれているようです。賠償責任を認めなかった裁判例[1]は、ゴルフ場が貴重品ボックスをフロントから目の届く範囲に設置し、不審者をチェックするとともに毎日ボックスに異常がないか確認していたと認定し(でも、盗まれてしまったのですが・・・)、それ以上の義務を負わせることは「貸金庫を設置する銀行と同様の義務を負うとするに等し」く、それは過大だとして、ゴルフ場を擁護しました。一方、賠償責任を認めた裁判例[2]は、フロントから見えない場所に設置されていたことを問題視し、ゴルフ場側はきちんと見回りをしていたと主張したのですが、その証拠はないと一蹴しました。スポーツクラブの事例ではありますが、貴重品ボックスに小型カメラを設置できないような工夫をしたうえで、しっかり監視すべきだったと認定して、クラブの責任を認めた裁判例[3]もあります。
ということで、多少のばらつきがありますが、運営会社側としては、賠償義務を認めた裁判例を参考に、しっかりと対策を講じるべきでしょう。一方、ゴルファー側も、賠償義務を認めた裁判例も3割から4割の過失相殺をしていることに留意しなければなりません。特に、貴重品ボックスの暗証番号として、キャッシュカードの暗証番号と同じ番号を使っていたことについては、厳しく見られているようです。
ゴルフは紳士のスポーツと言いますが、クラブハウスに集う人々のなかには不心得者がいることにも十分注意すべきでしょう。
[1] 東京高等裁判所平成16年12月22日判決
[2] 秋田地方裁判所平成17年4月14日判決
[3] 東京地方裁判所八王子支部平成17年5月19日判決