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養育費は海を越えて~外国判決の執行

康平と陽子は3人の子どもに恵まれ、日本で平穏に暮らしていましたが、結婚10周年を機にアメリカ合衆国カリフォルニア州のロサンゼルス近郊に移り住みます。ところが、数年を経過するうちに夫婦仲が険悪になり、ついに陽子は康平を相手取って離婚裁判を提起します。当然と言えば当然ですが、舞台はロサンゼルスの州裁判所となりました。

陽子は3人の子どもたちとともにアメリカに根を下ろすつもりだったようですが、康平は裁判が始まってまもなく日本に帰国しました。最終的に、ロサンゼルスの裁判所は離婚を認めるとともに、康平に対し、子どもたちの養育費として月額合計3,416米ドル(現在の為替レートでは約36万円)を支払うよう命じ、判決は確定しました。

このように外国で得た判決は、一定の要件を満たすと、日本でも効力をもち、強制執行をすることができます。陽子はアメリカの判決を日本で強制執行するための裁判を、今度は日本で起こしました。これを「執行判決請求裁判」と言います。

最大の争点は、ロサンゼルスの裁判所が命じた養育費の額でした。日本の実務と比べて随分高額だったのです。判決文からは陽子の収入がわかりませんのではっきりしたことは言えませんが、それでも日本だったら24万円前後が相場でしょう。仮にそうだとすると、月額12万円も違います。康平は、「ロサンゼルスの裁判所の判決は、日本の公序良俗に反するから無効だ」と主張して争いました。

外国の裁判所が下した判決なんて信用できない。そう考えるのであれば、外国判決の効力を認めず、日本で改めて裁判をやってもらうということになるでしょう。しかし、そうすると当事者が外国の裁判所で頑張った努力が水の泡になってしまいます。また、日本が「外国判決なんて認めない」という態度を取れば、外国もまた、「日本の判決なんて認めない」ということになって、かえって不便にもなります。

そこで、外国判決の効力も認めることにしているのですが、一方で、法律や制度は国によって異なるもの。外国判決をそのまま持ってきても、実際に執行できなかったり、混乱するおそれがあります。これまで外国判決を「公序良俗に反する」として認めなかった著名な例としては、外国で命じられた懲罰的賠償を認めなかった例、外国で母子関係が認められた代理母による出産を日本では認めなかった例などがあります。

さて、康平と陽子との争いは、どうなったでしょうか。日本の裁判所は、確かに日本基準に照らせばロサンゼルスの裁判所の定めた養育費は高いけれど、公序良俗に反するとまでは言えないとしました。裁判の全体的な傾向としては、外国裁判所が決めた養育費を「日本の公序良俗に違反する」として無効にする例は少ないようです。

以前、ニューヨークの弁護士さんが、「離婚するならニューヨーク。女性にとって、日本よりはるかに有利な判決になるよ」とおっしゃっていました。もっとも、弁護士費用のことには触れておられませんでしたが・・・😅(東京地方裁判所平成26年12月25日判決。文中仮名)