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リンゴとビンゴ~商標と混同のおそれ

「あなた、リンゴとビンゴが違うことくらいわかるでしょう! それとも、離職(リショク)と美食(ビショク)の区別もつかないって言うんですかっ?!」
まあまあ、落ち着いてください。「リンゴとビンゴ」。似てるといえば似てるけど・・・。でも、いったいどうしてそんな争いになったんですか。

実は、1995年、マイティアなどの点眼薬で有名な千寿製薬が、新しい製品に「リスコート(英文名 RISCOAT)」という商標をつけて売り出そうとしました。特許庁も登録を認め、いよいよ前途洋々たる船出かと思われたところ、1998年、眼科用薬剤で世界的に著名な企業、アルコンから待ったがかかりました。アルコンは、眼科手術の補助薬剤である「ビスコート(英文名 VISCOAT)」を1980年代から世界中で販売しており、「リスコート」は「ビスコート」と混同のおそれがあると主張したのです。
特許庁はアルコンの主張を認めず、争いは法廷へ。ここで「リ・ビ紛争」が華々しく展開されたのでありました。
アルコン側の主張を聞いてみましょう。
「ふたつの名前のうち『○スコート』は同じなんです。英語で書いても“-ISCOAT”は同じ。リとビ、RとVの違いしかないんですよ。ほら、口で言ってみてください。アクセントは『コ』にあって、最初の音は小さいでしょう。なおさら区別がつきにくいんです。千寿さんがどういう商品に『リスコート』とつけるのかわかりませんが、千寿さんも目薬などの会社ですから、きっと眼科関係の薬でしょう。とすると、お医者さんが『ビスコート』を注文しようとして、うっかり『リスコート』を買ってしまった、なんてことも起こりかねませんよ。」
これに対して、千寿製薬も負けてはいません。
「いやいや、リンゴとビンゴも一字違いでしょう。でも、あなた、混乱しますか。『ビンゴ』って聞いて、かぶりつこうとするんですか。しかも、調べてみたら『○スコート』がつく商品名は他にもたくさんあるんですよ。ディスコート、クリスコート、モスコート、キレスコート、ジャスコート、ガスコート・・・。『○スコート』は同じなんだから、みなさん、区別のために最初の音を強く発音するんですよ。だから混同なんてしないんですよ。」

実際のやりとりはもっと上品だったとは思いますが、いずれにしても、裁判所は次のように判示して、混同のおそれありと認定しました。
「リンゴとビンゴの区別がつくのは、誰でも、リンゴと聞いた瞬間、あの赤い果物を思い浮かべるし、ビンゴと聞いた瞬間、結婚式の二次会のビンゴゲームを思い浮かべるからですよ。でも、薬剤はそうはいきません。しかも、リスコートもビスコートも眼科関係の薬の名前となれば、流通経路が重なる可能性もありますし、電話で注文をするときに間違ってしまうこともあり得ますよね。」
こうして「リ・ビ紛争」は、アルコン側の勝利で終わり、リスコートが世に出ることはありませんでした。
え? 「くれたけ法律事務所」の名称も、某筆ペンメーカーと混同のおそれがあるんじゃないかって? いえ、だって当事務所では筆ペンの取り扱いはございませんし・・・(^_^;)(東京高等裁判所平成13年9月13日判決。若干脚色してあります)。