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面会交流の悩み~「子どもの福祉」とは
面会交流は、基本的に子どもの健全な成長に好ましいことと受け止められていますので、裁判実務では子どもの福祉に反しない限り認めています。ただ、「子どもの福祉」を具体的にどう判断するのかはとても悩ましい問題で、簡単に答えが出るものではありません。
一郎さんと花子さん夫妻には、小学校低学年の女の子がいます。夫婦の間に暴力はありませんが、問題は一郎さんの浮気。根っからのプレイボーイで、「不倫は文化だ」と言ったかどうかはわかりませんが、結婚直後からたびたび複数の女性と浮名を流し、ついに花子さんは娘を連れて家を出ました。
花子さんが一郎さんに愛想を尽かしていれば、それはそれで割り切れたのかもしれません。でも、そう簡単ではないのが女心。いったん離婚調停を起こしたものの、離婚は見送り当面別居ということで合意します。そのなかで、月1回の面会交流も定め、交流は円満に実施されました。
調停終了後、実は一郎さんと花子さんは、2年間に2度、娘も連れて海外旅行に行きました。一郎さんが花子さんの家に宿泊することもありました。ひょっとして元の鞘(さや)に収まるかなと思われたところで、花子さんが一郎さんの新しい交際相手と鉢合わせになったことから事態は最悪の展開に。花子さんはショックで休職し、心療内科で投薬治療を受けることになってしまいました。
その後、花子さんの体調は持ち直し、何とか復職に至りましたが、面会交流は断固拒否。一郎さんは再び裁判所に申し立てました。
まず、一郎さんの主張です。
「女性との交際は認めますが、それと子どもとの交流は別の話でしょう。いえ、花子を責めるつもりはありません。面会交流を手伝ってくれる第三者機関を利用してもいい。その費用はボクが出します。ただ、娘と会いたいんです。」
次に、花子さん。
「主治医から、ストレス原因である夫と接触すべきでないと指導されています。娘には私が女性と出くわしたことは話していませんが、夫の女性問題は以前からですから、娘も父親に不信感を持っています。こんな状況での面会交流なんて、娘のためになりません。」
そして、最後に女の子。幼いながら調査官に語ります。
「みんなで一緒に住みたかったけど、それは無理だった…。ママはパパが好きで結婚したから、あたしもパパが大事だよ。でも、パパは悪いことしたから、ママに謝らないといけない。パパには会いたいけど、ママが心配だから…。」
お読みになって、どう感じましたか。いたいけな女の子の気持ちを思うと、親を責める言葉が喉元(のどもと)までこみ上げるかもしれません。しかし、プロはその言葉をぐっと飲み込んで、この状況下で面会交流を再開することが女の子にとってどうなのか、それだけに専心します。でも、たどりつく答えも一様ではありません。
家庭裁判所は、女の子が母親をとても気遣っていることを重視し、この状況で面会交流を再開することは女の子の福祉を害するおそれがあるので相当でないとしましたが、高等裁判所は、むしろ面会交流が途絶えた状況が続くことが、女の子に過度の精神的負担を強いることになると考え、月1回の面会交流を再開するよう命じました(神戸家庭裁判所令和元年7月19日審判、大阪高等裁判所令和元年11月8日決定。若干脚色してあります)。
懸命に考えた上でたどりついた裁判所の結論に論評はしません。ただ、この子を支えてあげる大人が近くにいてほしい。切にそう願うばかりです。